
写真:Japonica, Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0)/ブナの古木に重なって生えたツキヨタケ
秋の登山道で見かけるキノコ|「採らない・食べない・触らない」の理由、毒キノコ食中毒の数字、国有林のルールとキノコ採りのクマ被害
10月から11月の登山道では、倒木や落ち葉の間にいろいろなキノコが顔を出します。毒キノコによる食中毒が毎年どれくらい起きているのか、ツキヨタケとムキタケのように食用キノコとそっくりな組み合わせ、触るだけで炎症を起こすカエンタケ、少量でも命に関わるドクツルタケ、「縦に裂ければ食べられる」などの言い伝えが誤りである理由、国有林での採取と森林法の森林窃盗、そしてキノコ採りの季節に重なるクマの人身被害までを、厚生労働省・林野庁・環境省などの公式情報をもとに整理します。
目次
先に結論|登山中のキノコは「見て、撮って、置いていく」
秋の山を歩いていると、ブナやナラの倒木、落ち葉の積もった斜面に、色も形もさまざまなキノコが目に入ります。見つけると楽しいものですが、登山者がとる行動は次の3つに決めておくと迷いません。
- 採らない・食べない:食用と確実に判断できないキノコは、採らない、食べない、売らない、人にあげない(厚生労働省の呼びかけ)
- 素手で触らない:触れるだけで皮膚の炎症を起こすキノコがある
- 夢中にならない:キノコを探して下を向いたまま登山道を外れると、道迷いやクマとの出会いの危険が増える

この記事では、毒キノコの食中毒の数字、見分けが難しい組み合わせ、採取のルール、キノコ採りの季節に重なるクマの被害を順に見ていきます。キノコを採りたい人向けの見分け方ガイドではなく、登山者が「手を出さない」理由を知るための記事です。
毒キノコの食中毒は毎年起きている|令和7年は16件・46人(速報値)
厚生労働省の食中毒統計をもとにした兵庫県のまとめでは、全国の毒キノコによる食中毒は次のとおりです。
| 発生年 | 件数 | 患者数 |
|---|---|---|
| 令和7年(2025年) | 16件 | 46人(速報値) |
| 令和6年(2024年) | 19件 | 48人 |
| 令和5年(2023年) | 24件 | 60人 |
| 令和4年(2022年) | 9件 | 27人 |
| 令和3年(2021年) | 12件 | 42人 |
| 令和2年(2020年) | 28件 | 74人 |
出典:兵庫県「毒キノコによる食中毒について」(厚生労働省の食中毒統計をもとにした集計)
件数そのものは細菌やウイルスの食中毒より少ないものの、厚生労働省は、キノコ毒には致命率の高いものがあり、食品衛生上きわめて重要だとしています。令和6年には、長野県で道端で採ったキノコを食べた人が多臓器不全で亡くなる事例も起きています。
なかでも多いのがツキヨタケです。栃木県の案内では、平成28年から令和7年までの10年間でツキヨタケによる食中毒は105件・患者298人にのぼります。令和6年も、全国19件のうち10件がツキヨタケでした。発生は夏の終わりから秋に集中していて、10月から11月の山歩きの時期とちょうど重なります。
そっくりな組み合わせ|ツキヨタケとムキタケ、クサウラベニタケとホンシメジ
毒キノコの食中毒の多くは、「食べられるキノコだと思った」ことから起きています。厚生労働省の「自然毒のリスクプロファイル」が挙げる、間違えやすい組み合わせの例です。
| 毒キノコ | 間違えやすい食用キノコ | 生える場所・時期 | 食べたときの症状 |
|---|---|---|---|
| ツキヨタケ | ムキタケ、ヒラタケ、シイタケ | 夏〜秋(特に秋)。ブナ、イタヤカエデなどの枯れ木に重なり合って生える | 食後30分〜1時間ほどで嘔吐、下痢、腹痛。幻覚やけいれんを伴うこともある |
| クサウラベニタケ | ウラベニホテイシメジ、ホンシメジ、ハタケシメジ | 夏〜秋。広葉樹林の地上 | 食後20分〜1時間ほどで嘔吐、下痢、腹痛。よだれ、瞳孔が縮む、汗が出るなども |
| ドクツルタケ | シロマツタケモドキ、ハラタケ、ツクリタケ | 初夏〜秋。針葉樹林・広葉樹林の地上 | 食後6〜24時間で嘔吐・下痢。いったん治まったあと肝臓や腎臓が傷み、死亡することがある |
| カエンタケ | ベニナギナタタケ | 夏〜秋。ブナ、コナラなどの広葉樹林の地上 | 食後30分から発熱、嘔吐、下痢、手足のしびれ。死亡例あり。汁に触れると皮膚障害 |
出典:厚生労働省「毒キノコによる食中毒に注意しましょう」、厚生労働省「自然毒のリスクプロファイル」
ツキヨタケとムキタケは同じ倒木に並んで生えることがある
ツキヨタケが厄介なのは、食用のムキタケと同じ場所に混ざって生えていることがある点です。厚生労働省のリスクプロファイルでも、そのときに間違えて食べてしまう例があると書かれています。ムキタケもブナやミズナラなどの枯れ木や倒木に、たくさん重なり合って生えるキノコです。

ツキヨタケは、柄の肉の内部に暗紫色〜黒褐色のしみがあることや、暗い場所で目が慣れるとひだがかすかに光ることが特徴として挙げられています。ただしリスクプロファイルには、このしみははっきりしないもの、ないものもあると書かれています。ひとつの特徴だけで「これは大丈夫」と判断できないのが、毒キノコの見分けの難しさです。
荒島岳や八甲田山のように、秋に歩くブナ林の多い山では、倒木に生えたキノコを目にする機会も多くなります。眺めて写真に収めるところまでにしておきましょう。
クサウラベニタケは「地味で食べられそう」に見える
クサウラベニタケは、傘が灰色〜黄土色や茶色で、ひだは白色から成熟すると肉色になるという、いかにも普通のキノコらしい見た目をしています。傘の色にも幅があり、ひとつの色や形で覚えることができません。ホンシメジやウラベニホテイシメジといった人気の食用キノコと間違えられ、平成27年から令和6年までの10年間に35件・102人(疑い例を含む)の食中毒が起きています(厚生労働省のまとめ)。

食べなくても危ないキノコ|触るだけで炎症を起こすカエンタケ
登山者にとって特に知っておきたいのがカエンタケです。赤からオレンジ色の、手の指が地面から突き出したような形のキノコで、ブナやナラの林の地上に生えます。厚生労働省は「触れるだけでも炎症を起こし、食べると死亡する場合もある」と注意を呼びかけています。

見た目は食用に見えないキノコですが、薬になると勘違いして酒に漬けて飲み、亡くなった例もあるとリスクプロファイルに記されています。「珍しい形だから持ち帰って調べよう」と手に取るのも避けてください。
少量でも命に関わるドクツルタケ|症状が遅れて出る
ドクツルタケは、全体が白く、すらりとした姿のキノコです。厚生労働省によると、食後6〜24時間ほどで嘔吐や下痢が起き、いったん1日ほどで治まったあとに、肝臓や腎臓の細胞が壊されて死亡することがあります。

厚生労働省のまとめでは、平成27年から令和6年までの毒キノコの食中毒による死者5人のうち2人がドクツルタケによるもの(疑い例を含む)でした。症状が出るまで時間がかかり、一度よくなったように見えるため、「大したことはなかった」と受診が遅れることも怖さのひとつです。
言い伝えでは見分けられない
キノコには昔から「こうなら食べられる」という言い伝えがありますが、自治体や厚生労働省ははっきり否定しています。
| よく聞く言い伝え・思い込み | 実際は |
|---|---|
| 柄が縦に裂けるキノコは食べられる | 誤り(兵庫県) |
| 地味な茶色いキノコは食べられる | 誤り(兵庫県)。ツキヨタケもクサウラベニタケも地味な色 |
| よく加熱すれば毒は消える | キノコの毒は調理しても除去できない(栃木県・兵庫県) |
| 昔から食べられているキノコなら安心 | 古くから食用とされてきたスギヒラタケでも、急性脳症のような症状が疑われる事例が起きている(厚生労働省) |
| 詳しい人にもらったから大丈夫 | 採ったキノコを安易に人に譲ったり、譲り受けたりしないよう呼びかけられている(兵庫県)。判別は科学的に同定できる専門家に |
出典:兵庫県「毒キノコによる食中毒について」、栃木県「毒キノコによる食中毒に注意!」、厚生労働省「毒キノコによる食中毒に注意しましょう」
スマホの写真や図鑑と見比べるのも、確実な判断にはなりません。ツキヨタケのしみのように、同じ種類でも特徴が出たり出なかったりするからです。
そもそも採ってよい場所か|国有林の産物と森林法の「森林窃盗」
毒かどうか以前に、山のキノコはその森林の持ち主のものです。北海道森林管理局は、国有林で樹木や山菜を含む草、キノコ、岩石や土砂などの産物を無断で採ると、森林窃盗などに問われることがあると案内しています。
森林法では、次のように定められています。
| 条文 | 内容 |
|---|---|
| 第197条(森林窃盗) | 森林でその産物を盗んだ者は、3年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金 |
| 第198条(保安林での森林窃盗) | 保安林の区域内で行った場合は、5年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金 |
国有林は登山道や休憩施設など、決められた場所を登山や森林浴で利用するだけなら、入林の手続きはいりません(四国森林管理局・北海道森林管理局の案内)。一方で、北海道森林管理局は歩道や広場などの区域の外へ立ち入らないよう求めています。民有林でも、持ち主に無断で産物を持ち出してよいわけではありません。
地域によっては、山形市のように国有林で山菜やキノコを採る人向けに入林許可証を発行しているところもあります。「みんな採っているから」ではなく、採ってよい場所と決まりがある場所でだけ行うもの、と考えておきましょう。
キノコ採りの季節はクマの季節|令和7年度は10月だけで78件
秋はクマが冬眠前に食べ物を探して活発に動く時期でもあります。環境省の速報値では、令和7年度(2025年4月〜2026年3月)のクマによる人身被害は216件・被害者238人、うち死亡13人で、そのうち10月だけで78件・89人(死亡7人)と、1年で最も多い月でした。令和8年度も9月までの速報値で64件・68人(死亡6人)が記録されています。
被害が起きた場面にも特徴があります。山形県のまとめでは、昭和52年から令和7年11月までの県内の人身被害125件のうち、キノコ採り中が37件(約30%)で最も多く、山菜採り中の24件(約20%)が続きます。
キノコを探しているときは、次のような状態になりがちです。
- 地面ばかり見ていて、前方や周りの気配に気づきにくい
- 声や音を立てずに、静かにゆっくり動く
- 登山道を外れて、見通しの悪い藪や沢沿いに入り込む
どれも、クマと出会い頭にぶつかりやすい条件です。登山道で見かけたキノコに足を止めるのは短い時間にして、熊鈴など音の出るものを身につけ、出没情報も事前に確認しておきます。対策は熊鈴の記事、クマ撃退スプレーの記事、出没情報の調べ方はクママップの記事を参考にしてください。11月15日からは多くの地域で狩猟期間も始まるため、狩猟シーズン中の登山の注意もあわせて確認しておくと安心です。
また、落ち葉が積もった晩秋の山では、踏み跡が見えにくくなります。キノコを追って登山道から数歩外れただけでも、戻る道を見失うことがあります。歩き方のコツは落ち葉で登山道が見えにくくなる時期の記事でまとめています。
見つけたときと、食べてしまったときの行動
最後に、登山道でキノコを見つけたときの行動と、万一食べてしまったときの対処をひとつの図にまとめました。

兵庫県の案内では、間違えて食べてしまったとわかったら、次のように行動するよう呼びかけています。
- すぐに吐き出す
- 一刻も早く病院を受診する
- 受診のときに、何を食べたかを医師に伝える
- 原因と疑われる食品や残っている材料は捨てずに、受診の際に持っていく
山の上で体調が急に悪くなったときは、無理に歩き続けず、早めに助けを求める判断も大切です。寒さで体力が落ちる時期の注意は秋山の低体温症の記事を、日没が早い時期の行動計画は晩秋の日没とヘッドライトの記事もあわせてご覧ください。
参考リンク
- 厚生労働省 毒キノコによる食中毒に注意しましょう
- 厚生労働省 自然毒のリスクプロファイル
- 厚生労働省 自然毒のリスクプロファイル:ツキヨタケ
- 厚生労働省 自然毒のリスクプロファイル:カエンタケ
- 厚生労働省 自然毒のリスクプロファイル:ドクツルタケ
- 厚生労働省 令和6年食中毒発生状況の概要(PDF)
- 兵庫県 毒キノコによる食中毒について
- 栃木県 毒キノコによる食中毒に注意!
- 北海道森林管理局 入林手続が不要な場合
- 北海道森林管理局 国有林への入林
- 四国森林管理局 国有林への入林ガイド
- e-Gov法令検索 森林法
- 山形市 入林許可証について
- 環境省 クマに関する各種情報・取組
- 環境省 令和7年度におけるクマの人身被害件数[速報値](PDF)
- 環境省 令和8年度におけるクマの人身被害件数[速報値](PDF)
- 山形県 第2回クマ緊急対策会議 資料(PDF)
執筆・確認
山日記編集部
実際の山行記録や公的機関・自治体の最新情報をもとに、登山ルート・装備・安全対策をわかりやすく整理して発信しています。 登山道・交通・施設情報は変わるため、記事公開後も必要に応じて更新し、最新確認先も案内しています。
