
写真:Henadz Besarab, Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0)/ニット帽をかぶって山を歩く登山者(西コーカサス)
晩秋の登山の帽子とネックウォーマー|「熱の半分は頭から逃げる」の本当のところ、風速と体感温度、ニット帽・バラクラバの使い分け
晩秋の稜線で冷えやすいのは、上着や手袋で覆いきれない耳・頬・首です。「体の熱の半分は頭から逃げる」という話の出典と実際、気温と風速から計算した顔の体感温度の表、耳や鼻の凍傷のサイン、素材の水分率、ニット帽・ネックゲイター・バラクラバ・つば付き帽子の使い分け、ヘルメットの下にかぶる帽子の考え方をまとめました。
目次
先に結論|晩秋は「耳まで隠れる帽子」と「首を覆う筒」を季節の装備に足す
10月下旬から11月にかけての山では、上着と手袋をそろえても、最後まで風にさらされるのが耳・頬・鼻・首です。この時期の頭と首まわりの備えは、次の4つで考えると迷いません。
- 基本の組み合わせは「耳まで隠れるニット帽」+「筒型のネックゲイター(ネックウォーマー)」。どちらも軽く、ポケットに入ります。
- 風の強さで足すものを決める。気温0℃・風速10m/sのとき、米国気象局(NWS)の式で計算した顔の体感温度は約−7℃です。風が強い予報の日は、顔まで覆えるバラクラバか、鼻の下まで引き上げられるネックゲイターを持ちます。
- 素材は「濡れたらどうなるか」で選ぶ。綿のニット帽は汗を含んだまま乾きにくいので、毛(ウール)か化学繊維のものを選びます。
- ヘルメットをかぶる山では、厚手のニット帽ではなく、ヘルメットの下に入る薄手の帽子にします。
「頭から体の熱の半分が逃げる」という話は、実は根拠が弱いことがわかっています。それでも帽子が大事なのは、ほかを覆ったあとに出ている場所が頭と顔と首だからです。以下で順に説明します。

「体の熱の40〜45%は頭から逃げる」は本当か
冬になると「熱の半分近くは頭から逃げるから、帽子をかぶりなさい」とよく言われます。この話について、米国インディアナ大学の医師2人(Vreeman・Carroll)が2008年に医学誌BMJで検証しています。
- この説のもとになったのは、1950年代に米軍が行った寒冷地の実験で、被験者は頭以外を防寒服で覆っていたといわれています。体のほかの部分を覆っていれば、熱が逃げる場所が頭に偏るのは当然です。
- 頭は体の表面積のおよそ1割で、覆っていない部分からはその面積に見合った熱が逃げる、というのが論文の説明です。著者は「もし頭から熱の大半が逃げるなら、帽子をかぶらないのと同じくらい、ズボンをはかなくても寒いはずだ」と書いています。
つまり「頭だけが特別に熱を逃がす」わけではありません。ただ、晩秋の山で上着・手袋・長ズボンを身につけたあとに残る「出ている場所」は、まさに頭・顔・首です。ここを覆うと、まだ覆っていない場所から逃げる熱をまとめて減らせます。帽子が効くのは、この順番の問題だと考えるとわかりやすいと思います。
風のある稜線では、顔と耳の体感がまとめて下がる
帽子やネックウォーマーが本当に必要になるのは、気温が低いときより、風を受ける場所に出たときです。長野県の秋山の注意喚起では「風速が1m上がると体感温度が1℃下がる」という目安が紹介されています。
もう少し細かく見るために、米国気象局(NWS)が使っている体感温度(ウインドチル)の式で、晩秋の山頂で起こりやすい気温と風速の組み合わせを計算しました。この式は人の顔を模したモデルで、顔の高さで受ける風を前提にしているので、まさに「帽子やネックウォーマーで覆うかどうか」の目安になります。

この表からわかることは3つです。
- 気温5℃の山頂でも、風速10m/sなら顔の体感は0℃前後になります。長野県の目安(1mで1℃)に当てはめると−5℃で、どちらで見ても「真冬の街なか」並みの冷たさです。
- 気温が低いほど、同じ風でも下がり幅が大きくなります。気温10℃では風速10m/sで4℃ほどの差ですが、気温0℃では7℃ほど下がります。
- 凍傷になるのは、実際の気温が0℃を下回るときだけです。NWSは、体感温度が氷点下でも気温がプラスなら凍傷にはならないと説明しています。ただし、体の熱を奪われ続ければ低体温症の心配は残ります。
山の天気予報に出る風速は、山頂や稜線の値か、上空の値かでも意味が変わります。風の予報の読み方は「初冠雪のニュースが出たら|晩秋の山の天気の読み方」で詳しくまとめています。

耳・鼻・頬は、凍傷になりやすい場所
日本創傷外科学会によると、凍傷は指・足の指・耳・鼻によく起こります。どれも体の端にあって細く、血の流れが減ると真っ先に冷える場所です。「家庭の医学 大全科」の解説では、皮膚の温度が下がると色が変わり始め、皮膚の温度が−4℃になると凍傷が起こるとされています。
10月下旬の北アルプスなど標高の高い山では、長野県の注意喚起にあるとおり、朝晩は氷点下になることも珍しくありません。気温が0℃を下回り、そこに風が加わる場所では、耳を出したまま歩き続けないようにします。
| 段階 | 起こること | その場でできること |
|---|---|---|
| 冷えはじめ | 耳や頬がじんじんする、ピンや針でつつかれたような感じがする | 帽子を耳まで下ろす、ネックゲイターを鼻の下まで上げる、風の当たらない側へ回る |
| しびれ | 感覚が鈍くなる、触っても冷たさを感じにくい | 手袋をした手のひらで覆って温める。こすらない |
| 白く硬くなる | 皮膚が白っぽく、硬く冷たくなり、感覚がなくなる | 下山を急ぎ、医療機関へ。たき火やストーブなどの乾いた熱で温めない |
日本創傷外科学会は、凍傷の最初の治療として約40℃のお湯に患部を30分ほどつけて温める方法を挙げています。一方で、マッサージやストーブなどの乾いた熱で温めることはしてはいけないとしています。山の上でお湯を用意して30分温めるのは難しいので、現場では「こすらない」「火に近づけない」「それ以上冷やさない」を守り、早めに下りるのが現実的です。
体全体が冷えてしまう低体温症については「秋山の低体温症とは?」で、症状と対処法をまとめています。
素材は「汗で濡れたらどうなるか」で選ぶ
晩秋の登りは、気温が低くても汗をかきます。帽子は額の汗を、ネックウォーマーは首の汗と吐く息の湿気を、どちらも直接受けます。素材ごとの水分の含みやすさは、消費者庁の繊維製品品質表示規程で決められている公定水分率(標準的な状態で繊維が含んでいる水分の割合)がひとつの目安になります。
| 素材 | 公定水分率 | 帽子・ネックウォーマーとしての特徴 |
|---|---|---|
| 毛(ウール、メリノウールなど) | 15.0% | 湿気をよく吸うので、汗をかいても肌がべたつきにくい。乾くのは化学繊維より遅め |
| 綿 | 8.5% | 汗を吸ったまま乾きにくく、濡れると冷える。山では避けたい |
| ナイロン | 4.5% | 丈夫で風を通しにくい。防風素材の帽子や耳当ての表地に多い |
| アクリル | 2.0% | 安価なニット帽に多い。軽く、汗を吸いにくい |
| ポリエステル(フリースなど) | 0.4% | 水分をほとんど含まず乾きやすい。ネックゲイターやフリース帽に多い |
綿が山の肌着に向かない理由は「登山用速乾性インナーはなぜ必要?」で詳しく説明しています。帽子とネックウォーマーも考え方は同じで、「綿100%」の表示があるものは避けると覚えておけば十分です。
もうひとつ見落としやすいのが風の通り方です。ざっくり編んだニット帽やフリースは、強い風を受けると編み目から風が抜けます。風が強い日は、上からレインウェアのフードをかぶると、帽子の暖かさがぐっと生きます。フードの使い方は「登山レインウェアの選び方」もあわせてどうぞ。
種類ごとの役割と、向いている場面
頭と首を覆うものは、形によって守れる場所が違います。1つで全部をまかなうより、ニット帽とネックゲイターの2点を基本にして、条件で足すほうが調節しやすくなります。
| 種類 | 覆える場所 | 向いている場面 | 気をつけること |
|---|---|---|---|
| 厚手のニット帽 | 頭・耳 | 山頂や休憩、朝の出発前など、止まっている時間 | 登りでは暑くなりやすい。耳まで深くかぶれる長さを選ぶ |
| 薄手のビーニー(フリース・ウールの薄手) | 頭・耳 | 歩いている間、ヘルメットの下 | 風が強いとすぐ冷えるので、フードと組み合わせる |
| 耳当て・ヘッドバンド | 耳・額 | 暖かい日の樹林帯、汗をかきやすい登り | 頭頂は開いているので、稜線の強風には足りない |
| ネックゲイター(筒型のネックウォーマー) | 首・あご・鼻の下まで | ほぼ一年中。晩秋はいちばん出番が多い | 息で湿りやすい。顔まで上げると眼鏡が曇ることがある |
| バラクラバ(目出し帽) | 頭・耳・首・顔の大部分 | 強風の稜線、気温が0℃を下回る高い山 | 晩秋の低山では暑すぎることが多い。薄手ならヘルメットの下にも使える |
| つばのある帽子・キャップ | 頭・顔(日差し) | 晴れて日差しの強い日、雨の日のフードの下 | 耳が出るので、風が強い場所では保温にならない |

薄手の筒型ネックゲイターは、首に巻くだけでなく、頭にかぶって帽子代わりにしたり、耳まで引き上げたりと形を変えられます。帽子を忘れたときの予備にもなるので、1枚あると便利です。

行き先と天気から、持っていくものを決める
どれを持つかは、山頂の予想気温、風、ヘルメットの有無、日差しの4つで決めると簡単です。

山頂の気温は、麓の予報から標高差で見当をつけられます。目安の出し方は「初冠雪のニュースが出たら」で紹介しています。上着の重ね方全体は「登山の服装(レイヤリング)完全ガイド」、手の冷え対策は「晩秋の登山の手袋」、休憩中に着る防寒着は「晩秋の山の防寒着の選び方」にまとめています。
歩いている間と、止まったときで使い分ける
帽子とネックウォーマーは、着けっぱなしにするものではありません。汗で濡らすと、止まったときに逆に冷える原因になります。
- 登りはじめは外しておく。寒い朝は帽子をかぶって歩きはじめても、体が温まって汗をかきはじめたら早めに外します。ネックゲイターは首まで下げるだけでも、熱がこもりにくくなります。
- 稜線に出る手前でかぶる。樹林帯を抜けて風を受ける場所に出る前に、立ち止まったついでにかぶっておくと、冷えてから慌てずに済みます。
- 休憩と山頂では、まず帽子。止まったら、防寒着を着るのと同じタイミングで帽子をかぶり、ネックゲイターを上げます。
- すぐ取り出せる場所に入れる。ザックの奥にしまうと出すのが面倒になり、我慢してしまいがちです。上着のポケットやザックの雨ぶたに入れておきます。
- 強い風の日は飛ばされないように。長野県は、ヘリコプターの救助現場では台風並みの吹き下ろしの風が起こるため、帽子やザックを押さえるかしまうよう呼びかけています。強風の稜線でも同じで、つばのある帽子はあご紐をつけるか、ポケットにしまいます。
汗で濡れた帽子を山頂でそのままかぶり直すと、冷たく感じます。長い休憩をとる山や、汗をかきやすい人は、薄手の帽子かネックゲイターをもう1枚持つと安心です。日が短い時期はヘッドライトを帽子の上から着けることもあるので、ベルトが帽子の上でも締められるかを確かめておきましょう(晩秋の登山は日没に注意)。

ヘルメットをかぶる山では、帽子は「下に入る薄さ」で選ぶ
長野県は、遭難者の4人に1人が頭部を負傷しているとして、県内の一部の山域を「山岳ヘルメット着用奨励山域」に指定しています。無雪期には、次のような岩場や活火山が対象です。
- 北アルプス南部:槍・穂高連峰の岩稜帯(大キレットなど)、焼岳、乗鞍岳
- 北アルプス北部:不帰の嶮周辺、八峰キレット周辺
- 南アルプス:甲斐駒ケ岳、鋸岳
- 中央アルプス:宝剣岳
- その他:戸隠山・西岳(戸隠連峰)、御嶽山、浅間山
ヘルメットの下に厚手のニット帽を入れると、ヘルメットが浮いてしまい、頭に合いにくくなります。こうした山では、ヘルメットの下に入る薄手のビーニーかバラクラバを選び、家でかぶった状態でヘルメットのサイズを合わせておくのが確実です。休憩中は、ヘルメットを脱いで厚手の帽子に替えるのもひとつの方法です。
晴れた日は、紫外線にも気を配る
晩秋でも、晴れた稜線では日差しがまぶしく感じます。環境省の紫外線環境保健マニュアルでは、標高が1,000m上がるごとに紫外線量は10〜12%増えるとしています。気象庁も、夏の乗鞍岳(2,772m)では快晴時の紫外線がつくば(31m)より約40%強かったという観測を紹介しています。
環境省のマニュアルは、つばの広い帽子で眼に入る紫外線を20%以上減らせるとしています。晴れた日はつばのある帽子で歩き、休憩や風の強い場所ではニット帽に替える、という組み合わせが使いやすいと思います。
帽子の色は、もしものときの手がかりにもなる
長野県が救助を求めるときに伝える情報として挙げている項目には、**「帽子、上着、ズボン、ザックの色」**が入っています。上空のヘリコプターや捜索する人から見つけてもらうとき、頭は目に入りやすい場所です。
11月中旬からは多くの地域で狩猟期にも入るため、目立つ色の帽子は猟をする人に存在を知らせる意味もあります。色の選び方は「登山用の服はなぜ派手な色が多い?」、狩猟期の注意点は「狩猟シーズン中の登山注意」で紹介しています。
出発前のチェック
- 耳まで隠れる帽子を持ったか(綿100%ではないもの)
- ネックゲイター(ネックウォーマー)を持ったか
- 山頂の予想気温と風速を見たか。気温0℃前後で風速10m/s前後なら、顔まで覆えるものを足す
- ヘルメットをかぶる山なら、下に入る薄手の帽子を合わせてあるか
- 晴れの日は、つばのある帽子も持ったか
- 汗で濡れたときの替えの薄手の帽子かネックゲイターがあるか
- 帽子をすぐ取り出せるポケットや雨ぶたに入れたか
ほかの持ち物は「登山の持ち物チェックリスト」で確認できます。
参考リンク
執筆・確認
山日記編集部
実際の山行記録や公的機関・自治体の最新情報をもとに、登山ルート・装備・安全対策をわかりやすく整理して発信しています。 登山道・交通・施設情報は変わるため、記事公開後も必要に応じて更新し、最新確認先も案内しています。
